ふぁんたすてぃこ
もともと映画は、記録性と幻想性というふたつの対照的な要素から成り立っているメディアです。
記録映画の祖として、映画のもつ飛び抜けた記録を事実上、世界に知らしめたのはリュミエール兄弟ですが、映画に潜在していた幻想的な力をもののみごとに引き出し、この領域での先達となったのは、同じフランス人のジョルジュ・メリエス(1861~1938)です。
メリエスは1896年から1912年にかけて、およそ500本の短編作品を世に送り出していますが、そのほとんどがトリックを駆使した幻想映画です。
そしてもっとも有名なのがこの『月世界旅行』で、この作品によってメリエスの名は後世にまで語り継がれることになったのです。

『月世界旅行』は、ジュール・ヴェルヌ『地球から月へ』と、H・G・ウェルズ『月世界最初の人間たち』のふたつの小説が下敷きになっており、SF映画の元祖ともいうべき作品です。
全篇は30のシーンから構成されており、これは当時としては破格の長さでした。
このため、最初、興行師相手に上映会を開いたとき、すこぶる評判が悪かったそうです。
また、あまりにも現実離れした内容に宣伝ポスターをみた人々にも相手にされませんでした。
しかし、そのうち映画をみた人々から評判が広がり、最終的に映画は大成功をおさめます。
筋はいたって簡単。
月世界旅行の夢を果たそうと、科学者たちがロケットを完成させます。
そしてついに月面に到着しますが、結局月世界人に追われて、地球に逃げ帰ってきます。
内容的にはたわいもない空想物語ですが、ここには黎明期を脱した映画の姿が、現代にまで通じる物語映画の祖型があります。
もともと興行師であったメリエスが、はじめから映画をひとつの見せ物としてとらえていたとしても不思議ではないでしょう。
映画が観客に夢をあたえる商品なら、それなりに創意工夫する必要が生じます。
それまでは、リュミエール作品のように、周囲の日常風景を淡々と綴ったものが多かったのです。
しかしメリエスの登場によって、映画の製作方法が一変します。
あきらかにそこには、映画は作られるものだという認識がありました。
彼がスタジオを建設し、近代的な製作システムを確芒ていったのも、そのあらわれでしょう。
こうして映画は、産業としても大きな影響刀をもつようになったのです。